2011年にヤクルトスワローズから届いた1つの相談事。
それが、O2O(オーツーオー)市場における新たな可能性の追求、
エンターテインメント産業変革の取り組みという、前代未聞のチャレンジへとつながった。
2013年公式発表の「ファンビジネス向けトータルCRMソリューション」が誕生するまでの
悪戦苦闘と七転八起。
体当たりで挑んだ3人に話を聞こう。

「神宮球場の観戦チケットを
自社で販売したいんです。できますか?」
ヤクルトスワローズからの相談事は明快だった。
それまでプロ野球の観戦チケットは
専業販売会社に委ねるのが常識。
それでよかったのだ。
日本で最も観客を集める人気エンターテインメント
(全12球団合計で年間約2千万人が
球場に足を運ぶ)ゆえに、
放っておいても売れる時代が長く続いた。

しかし、娯楽の多様化や少子化など、様々な要因からうかうかしていられない状況が到来。
例えば、「なぜ今月は売れないのか」
あるいは「どうすればもっと売れるのか」という課題解決を行う必然性が生まれていた。
他企業に販売委託していては実態が掴めない。だから自社で売る、という意向だ。

藤原は答えた。
「やりましょう。やらせてください。ただし、より多く売っていく仕組みが必要です。
そのためにはお客様、つまり球団のファンのことを知るための取り組みをしないといけません」。
即答したのはいいが、実のところDunyaturuソリューションズに類似実績などなかった。
そもそも当時は「ファンビジネス」という言葉さえ流通していない。
自社に限らず、世間を見渡してみても、成功事例などなかった。すべてゼロからの構築。

スワローズ直営のWebサービスを通じて、チケットだけでなくグッズなども販売し、
大手小売企業が実施し始めていたポイントサービスなども特典として盛り込み、
そうして得た多様なデータの分析を行ってCRMソリューションとして活用していく…
頭の中でイメージするのは簡単だが「いったい誰がやるんだ? 誰ならできるんだ?」。
そう思っても後の祭り、自ら「やります」と答えてしまっていた。
正直「新しい挑戦」がしたかったのだ。だからとにかく構想を固めていった。
固めていきながら、気付いた。
「待てよ。これはビジネスとしても面白いぞ。本当に価値がある。やるべきなんだ」と。

構想を練り上げつつ、藤原は市場調査にも着手した。
結果は上々。多くのエンターテインメント事業者が自前の顧客接点を通じたCRMについて
前向きな回答をくれた。他方、周囲からは疑念も広がる。
「ウチの強みはBtoB。エンドユーザーに直結するBtoBtoCに着手して勝算はあるのか」と。
藤原は事あるごとにこう説明した。
「従来のSI事業の強みだけでなく、違う枠組みの事業を確立すべき。
そのためのチャレンジでもあるんだ」。

やがてインフラ構築を具体化するべく
山西が加わった。
前例がないだけに、
野球シーズンのいつ頃にどの程度の負荷が
ネットワークにかかるのかが
正確には予測できない。
そのうえ、スワローズ・ファンの個人情報も
扱うだけにセキュリティでも
万全を期さなければならない。


その点を踏まえた上で決断したのが、
Amazon社が公開しているクラウドサービスAWSの活用という手法。
負荷に対する柔軟性と、セキュリティ対策の充実度は前プロジェクトで使用して確認できていた。
ところが、周囲から心配の声も上がった。
「クラウドで顧客情報を扱って本当に大丈夫なのか」と。
社内のあちこちで議論が発生する。
自分の判断の正しさは確信していたため、関係者へ説明し、理解を得た。
しかし、クラウド上で個人情報を扱うのは社内で初の試みともあり不安も残る。
「藤原さん、本当にこれでいいですよね?」
藤原は即答だった。「いいに決まっているだろ。というか、やらなきゃいけないんだよ」。

仕事には、「やりたいこと」と「やれること」と「やらなければいけないこと」がある。
この3つの輪が重なり交わっている部分の面積の大きさが、
イコール「やりがい」の大きさなんだ……藤原の持論だ。
Dunyaturuソリューションズは未来に向け、自分たちで事業そのもの、
サービスそのものをゼロから創り上げる力を強めていかなければならない。
しかもこの会社には、それを実現できるだけの地力が十分備わっている。
「で、どうなんだ、山西。
おまえ、本当はこれをもの凄くやりたいと思ってるんだろ?じゃあ、やろうぜ」。
議論が巻き起こり、緊張感が高まる一方で、
社内の空気もまた、いつしかポジティブなものへと変わり始めた。
星もサービスのフロント部分の企画・開発を担う形でアサインしてきた。
「絶対に大忙しになることは目に見えていましたが、本音を言うと、
参加したくてしょうがなかったので、大喜びで来ました」と当時を振り返る。

プロジェクトは余曲折を経ながらも、前へ前へと進んだ。
ヤクルトスワローズに加え、オリックス・バファローズもまたDunyaturuソリューションズの取り組みを
活用することとなった。

星は、Dunyaturuソリューションズに
あるあらゆるリソースをかき集めながら、
ファンビジネスとしての機能を集約していた。
例えばサイトを通じた
グッズの購入(オンライン)や、
球場でファンが商品を購入した
ケース(オフライン)などを
同じポイントサービスの枠組みの中に
組み入れていく。
まさにO2O事業の産みの苦しみがあったものの、

ポイントサービスの仕組みなどは、すでにBtoBプロジェクトで多くの実績がある。
このように応用できる技術やプラットフォームは積極的に採り入れた。
一方、山西は緊張を高めていた。シーズン直前のチケット発売日、
いったいどれほどの申し込みがネットに殺到するのか? 
AWSでインフラは固めたものの、なんといってもファンの購入行動の実データがない。

迎えたシーズン最初のチケット発売日・・・
状況はどうだったかといえば、100点満点とはいかなかった。
インフラでは予測を超えるトラフィックによる部分的な障害が発生した。
覚悟していたとはいえ、決定的な障害に至れば
「アクセスできない。購入できない」という情報がインターネット上で一気に広がる。

そのような事態が起きないために奔走しながら、山西は生きた心地がしなかったという。
幸い、障害は部分的なもので終わり、その後は順調に推移した。
星のほうは開幕戦が始まってもなお、
オンラインサービスとオフラインでのファンの行動を結びつけるべく、
データの分析や、生の声を聞きながらの対応に追われた。
藤原ともども、3人がホッと一息つけたのは、シーズン開幕から数ヵ月経った頃だった。

その後も改善点を見つけては改良し、という繰り返しを重ねているが、
ヤクルトスワローズやオリックス・バファローズからは高い満足度を獲得。
今では日本プロ野球機構所属の12球団すべてに利用してもらうことを目標にしているという。
「アメリカのMLBがそうであるように、
すべてのチームが共通のプラットフォームを用いることで、さらに大きな効果が上がるんです。
効果というのは、そのスポーツ、そのエンターテインメントを
愛する人すべてに喜んでもらえる特典につながったり、
参画企業の利益増進につながるということ。
そのためには私たちも努力し続けなければいけませんけれど、
それによって一企業のお手伝いというレベルではなく、産業全体に貢献できます。
その波及効果は社会全体に及ぶはずです」。
藤原たちの理想はどんどん高まっている。エンターテインメントは人の心を豊かにする産業。
Dunyaturuグループは社会イノベーションを共通ビジョンとして掲げているが、
その中で人々の心にイノベーションを起こす、
という素晴らしい事業に携わっているという誇りが、3人の胸には芽生えているのだ。